ナポリの本流が生んだ、“Tito Allegretto” というエレガンス

2020.10.17

跳ね上がれ、ティート!

ティート・アッレグレットは1960年生まれ。ナポリクラシックの本流であるロンドンハウスにて、20代の頃からマリアーノ・ルビナッチのエレガンスを学んできた。まるで役者のような雰囲気を備えた紳士だ。2020年9月、ナポリにて。写真:吉澤祐輔

 

 

原稿・写真/藤田雄宏 写真/吉澤祐輔

 

 

ナポリ人“あるある”で、店主は店が暇なときは常に店先に立っていて、タバコを吸いながら、あるいはトスカーノ葉巻を燻らせながら、通りの番人のごとく道行く人を眺めている。ティート・アッレグレットもそんな感じでフィランジエーリ通りにあったボレッリの店先にいつも立っていて、僕はそこをしょっちゅう通っていたので自然と「Ciao!」と挨拶を交わすようになり、彼とはそんな感じで知り合った。2011~12年頃だったかな。

 

当時のティートの格好で印象深かったのは、長年着込んで色褪せたジェンナーロ・ソリートのネイビーコットンスーツがとてもいい感じに彼自身に馴染んでいたことだ。胸元はしっかりはだけていて、足元はポジターノの革サンダル。いかにも南イタリア的なスタイルでありながら、ティートのそれはアブラが抜けた感じの自然体で、雑誌のスナップに出てくるそこらのイタリア人とは次元が異なっていた。ファッションエディターの直感で、ビリビリビリビリッと体に電流が走ったのをよく覚えている。

 

ティートと出会ったフィランジエーリ通りは、一流ブランドショップがいい感じに点在しているナポリきっての高級ストリートだ。出会った当時はミッレ通りが始まる曲がり角にルビナッチの本店があって(現在はプラダ)、中ほどにはルイジ ボレッリ(いつの間にかなくなっていたけれど、今はカプリに素敵な店がある)やアットリーニ(昨年だったかな、閉店してしまった)があった。アットリーニの店だった隣にはピッツェリア リストランテの名店マットッツィ(パスタ エ パターテとジェノヴェーゼがオススメ!)があり、その向かいにはエルメスがブティックを構えている。ブルガリやモンクレール、フェンディやダミアーニのブティックもあって、原付きノーヘル4人乗り上等!スーパーカオスなサニタ地区あたりと比べると、同じナポリとは思えないほどお洒落で(それなりに)安全な通りなのだ。ここからマテルデイ広場、カラブリット通り、ナポリ湾が広がるヴィットリア広場へと抜ける道はナポリ屈指の美しさを誇り、ここをティートと一緒に歩いていると30秒ごとに「Ciao Tito!」とか「Ciao Carissimo!」と声をかけられる。彼がいかにこのあたりの“顔”であり、皆から愛されているかがよくわかる。

 

2013年だったかな。フィランジエーリ通りの入口にグランカッフェ チンミーノという僕がいつもまったりビールやスプリッツを飲むカフェがあって、そこでひと息ついていたら、向かいのパラッツォの門のところにティートがまた番人のように立っていて、声をかけると中に自分のショップをオープンしたというではないか。それを聞いてワクワクしながら店内を見せてもらったら、世界観も品揃えもなんとカッコいいことか! ティートのことは前から相当なウェルドレッサーだとは思っていたけれど、これほど素晴らしい世界観を表現できる才能をもっているとは思いもしなかった。僕は完全にノックアウトされ、その瞬間からティートの大ファンになった(ナポリの街にはクールすぎたのか、店は1年くらいでなくなってしまったが、、、)。

 

フィランジエーリ通りに構えていた自身の店にてティートをパチリ。2013年1月。

 

 

 

それから2年経った2015年1月、僕はTHE RAKEのナポリ支局員としてナポリでの生活をスタートさせた。ルカ・ルビナッチさんの双子の妹キアラ・ルビナッチさんが住んでいたカーザ ルビナッチというアパートをマリアーノ・ルビナッチさんから借りて住んでいたのだが、偶然にもティートが住んでいるアパートはその2軒隣だった。そんなわけで、ティートには妻ともども本当にお世話になり、おかげで僕のナポリ生活は自分が思い描いていたよりもだいぶ順調で、非常に楽しいものとなったのだった。

 

2015年、ティートの家のリビングにて。こんがりいい感じに日焼けしている。壁に飾った写真から、ティートが影響を受けたライフスタイルが垣間見れる。

 

 

 

ティートからはまずパスタのレシピを教わった。僕の妻が得意としているナポリ式パスタのひとつスパゲッティ アッレ ヴォンゴレは、実はティート仕込み。アサリは惜しみなくゴロゴロ、白ワイン(もちろんファランギーナ)もこれでもかとばかりにたっぷり、意外やニンニクはそこそこの量で、スパゲッティはもちろんグラニャーノ産。塩をたっぷり入れて茹で、いかにもナポリらしいしっかりめのアルデンテだ。小麦の風味に負けない大変力強い味わいで、ナポリのエネルギーをそのまま口に入れている感じとでもいうのかな。キンキンに冷えた地元産ファランギーナがグビグビと進んで進んで、ひと皿で1本空いてしまうほどである。

 

 

妻いわく今まで見てきたイタリア人の料理の中でもティートの料理は断トツに豪快とのこと。そういえばティートと一緒にアサリを買いに行った際は、魚屋で水に浸かっているアサリをいきなり手に取って殻を開いて生のまま口にしていたなぁ。で、「ブォーナ! ブォーナ! オヤジ、これくれ!」と言って、たっぷり買っていったっけ。で、ウチに来て台所のシンクにそのアサリをぶちまけてジャラジャラ洗って、そこから上記のとおりササッと作って。だいぶ大ざっぱにも思えたけれど、味はめっちゃイキイキしていておいしいもんだから、そのへんはサルトリア ナポレターナに通じる天性の感覚があるんだろうなぁ、と妙に感心したものだ。ティートのおかげで我が家では今でもナポリにかなり近い仕上がりのスパゲッティ アッレ ヴォンゴレを食せている(アサリの新鮮さとパワーはナポリが上かな)。

 

 

そんなティートの普段のファッションスタイルは非常に野太い感じだ。アメカジがミックスされていて(ミックスというよりそのまんまのときもある)、そこに関してはラルフ・ローレンからの影響が大きいという。マーロン・ブランドとアル・パチーノとジョニー・デップが好きだというし、家に遊びに行くと音楽はいつもクラプトンやボブ・ディランがかかっていた(イタリアのだとヴァスコ・ロッシとピーノ・ダニエレだった)。ちなみに靴はセバゴを普段履きしていたなぁ。ティートのいいところはアメリカものでも高価なヴィンテージではなく、現行品を肩肘張らずに雰囲気重視で着ているところ。それがかえってよりナチュラルな感じを生み出していて、ティートらしさを生み出しているんだよなぁ(長年着ていたらそこそこ古くなっていた、というのは結構ある)。

 

ティートが大好きなVasco Rossiの”E…”。イタリア人でヴァスコ・ロッシを嫌いだって人を聞いたことがない。ちなみに僕は”Silvia”という曲が特に好きだ。

 

 

一方でテーラードスタイルのときはイタリア人解釈による英国的な薫りがちりばめられていて、これがまた大層カッコいい。そのあたりはティートが20代のときにキャリアをスタートさせたロンドンハウス(現ルビナッチ)時代に、マリアーノ・ルビナッチさんから受けた影響が非常に大きいと彼は話している。ルビナッチでは今も昔もマリアーノさんの存在が絶対なので、若かったティートはマリアーノさんからの細かな指令をしっかりこなしながらそのこだわり、美意識を肌で学んでいったのだろうと想像がつく。そんな中で好んで着るようになったスコットランド調の色彩(イタリア人ならではの色気も忘れない生地選びをする)からは、マリアーノさんの趣味とはやや異なるものの、大きなところでは多大な影響を受けているのがよくわかる。

 

2015年、カーザ ルビナッチのテラスにて。この色柄の組み合わせこそが、まさにティートワールド。

 

 

ティートはロンドンハウスを離れてからはアットリーニで10年にわたってVMDとしてキャリアを積み、その後はイザイアでも活躍してきたのだが、「クラシックスタイルの根底にあるのはすべてマリアーノ・ルビナッチから学んだものさ。マリアーノからは美意識だけでなく、人生のエレガンスのすべてを教わった。彼こそは私が知る限りの最高のウェルドレッサーさ」というのを口グセのようにいつも言っていた。何度かその言葉を聞いた妻が「マリアーノさんってそんなに偉大なんだね」と言ってたくらいだ(汗)。

 

「コーディネイトのハズシのテクニックを楽しむには、エレガンスとは何かを深く理解しなればならないんだ」というのも、ティートがよく口にする言葉だ。確かに、どんなに着崩していてもだらしがないと思えるような格好は一度たりとも見たことがないし、そこには常にティートのエレガンスとハーモニーがある。ロンドンハウス時代に学んだ経験が、彼のベースとなってしっかり息づいているのだ。

 

ティートが世界で最も美しく、最も自分らしくいられる場所だという、マーレ キアーロ。ナポリ市内からポジリポへと坂を上っていき、そこから下っていったところにある。エレガントなリストランテが並んでおり、ティートのお気に入りは、いちばん人気の“Trattoria Da Cicciotto”。写真:吉澤祐輔

 

 

さて、そんなティートだが、2016年から「ティト アレグレット」の名でレディメイドのコレクションを展開している。当初からそのコレクションを見てきて、あれこれ相当試行錯誤しているなぁ、しっかりディレクションしているなぁ、技術面でも毎年しっかり進化させていて、ティートらしさも出ているし本当にすごいなぁとひいき目なしに感心しっぱなしだ。ここにきてイセタンメンズやビームスやユナイテッドアローズでも展開されるようになり、実を結び始めたというのかな。日本のマーケットでもいよいよその名が知られるようになってきた。

 

自身のコレクションのスーツを着てモノトーンスタイルでドレスアップしたティート。艶々な生地は選ばないものの、柔らかさも備えたもの、そして英国的なエレガンスを備えた生地を好む。写真:吉澤祐輔

 

 

「ティト アレグレット」のエージェントであり、ティートの相棒とでもいうのかな、フィルムの“ノブ”さんこと冨士原伸吉さんの存在も忘れてはならない。冨土原さんのイタリア出張はいつも月単位の長さで、レンタカーを借りっぱなしでナポリを拠点に南イタリアのあちこちをビュンビュン走り回っている。僕がナポリで訪ねる工房の先々で、「オマエはノブを知っているか? 日本人だと彼がここに来たことがあるぞ」といわれるくらい、ありとあらゆる小さな工房までを網羅している、ナポリを最もよく知り、ナポリで最も知られている日本人だ。何度かナポリでご一緒させていただいたことがあるけれど、日本人と一緒にいる感覚はなくナポリ人と完全に溶け込んでいて、なんとも不思議な感覚に襲われるのである。ナポリ人どうしが「ありゃ、ノブの血はサン マルツァーノかダッテリーノ(トマト品種)でできてるな」、「いやいやノブの血はアリアニコ(地場ブドウ品種)だよ」なんて冗談を言い合っているのを聞くと、なるほど、とこちらも妙に納得してしまう。

 

ティートはこういった森や草木の色のチェックを大変好むが、タッチは柔らかなものを選ぶことが多い。こちらはウールシルクカシミア。ジャケット<参考商品> Tito Allegretto/Film.,col.

 

 

 

ティートのコレクションのいいところは、そんな冨士原さんのまとめ方がナポリ人そのものというか、ティートの感性と魅力をそのまま見事に引き出していて、と同時に工場の特性を踏まえたうえで型紙や仕立て面を毎回しっかり修正して品質を見事に向上させているところだ。

 

 

スーツもジャケットもともにティート独自の世界を築いていて迎合していないんだけれど、時代を上手にとらえていて、この生地、この感じ、今の気分だなぁ、着たいなぁと思わせる服がとても多いように思う。

 

 

この価格帯にはさまざまな人気ブランドがひしめいているが、僕だったらティートだな!

 

 

 

※参考までに、ジャケットは¥107,000~、スーツは¥135,000~。

 

 

こちらは粗野なタッチのツイードジャケット。粗野な生地の場合は色柄でモダンさもプラスしていて、そのへんの塩梅がいい。ロールも美しい。ジャケット<参考商品>  Tito Alegretto/Film.,Col.

 

 

これを見て思い出したが、ダブルはチェンジポケットを好んで着ていた。剣先の高さも角度も、非常にバランスがいい。クラシックなイタリアンスタイルだ。スーツ<参考商品> Tito Allegretto/Film.,Col.

 

 

Film.,Col.  Tel.03-5413-4141

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