フランスの下町のビストロのような 日常をちょっと豊かにするレストラン「Étape(エタップ)」

2021.07.13

フランスの下町のビストロのような
日常をちょっと豊かにするレストラン「Étape(エタップ)」

エタップの河村シェフ。ルカ アヴィタービレのフライデーポロを愛用してくれています!

 

 

 

町中華で焼きそばをつっつきながらひとりまったりと瓶ビールを傾けている時間が至福です。

ちなみに「町中華で焼きそば」は、同い年の町中華仲間「スピーゴラ」の鈴木幸次さんからの影響(泣)。

いろいろなことが落ち着いたら幸次さんと長崎県町中華ツアーをするのが楽しみだ!

 

という話はさておき、今回は僕が惚れ込んだ最高においしいフレンチレストラン(って説得力ゼロじゃないか!)をご紹介します。

お店の名前は「Étape(エタップ)」。3月にオープンしたばかりで、クラシックな町中華しか認めたがらないこの僕が珍しくリピート通いしています。

 

すっきりこじんまりとした明るく温かみのあるカウンター席でシェフが料理する姿を眺めながら

(町中華慣れしている身としてはこの光景に親近感が湧くのです)友人とお手頃価格のワインを傾け、

最高においしい食事を楽しんでいるこの時間と空間がなんともいえずに心地いいんですよね。

 

とにかく河村シェフの優しく力強い料理が本当においしい!

 

と、僕がいくら言っても説得力に欠けるので、今回はかつて同じ編集部で一緒に働いていた食の求道者、山路美佐さんに原稿を書いてもらいました。

(BRIOのジョージ・ワンさんも山路さんの店セレクトには全幅の信頼を置いています。Instagram: @misamisa_0213 

 

 

では、山路さんの原稿をどうぞ。ああ、また河村シェフの料理が食べたくなってきた!(藤田)

 

 

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2021年3月にオープン以来、食いしん坊たちが夜な夜な集う「エタップ」は、住宅街の中に現れる3軒並ぶ飲食店の一角にある。

 

町の景色に馴染んだ右側の居酒屋、左側のちゃんこ屋に挟まれ、まだ新しい白い壁にニュアンスのある木の扉の小さなレストランは、

 

新入りの仲間のようにしっくり収まっていた。店主はフランスで8年過ごして日本に戻ってきた河村神賜(かわむらしんじ)さん。

 

パリの【タイユヴァン】などを経て【Restaurant Ken Kawasaki】、一つ星に輝く【キ・プルーム・ラ・リューヌ】のシェフを務めた人物だ。

 

 

取材・文 山路美佐 Misa Yamaji 写真 藤田雄宏 Yuko Fujita   

 

 

 

浅草駅を降りて、賑わう浅草の街に背を向けて駒形橋を渡ると、そこはのんびりとした時間が流れる下町エリアだ。さらに、お目当ての店がある小道に入ると目の前にはスカイツリーが目に飛び込んでくる。その景色に、ふとパリの7区のビストロを訪れたときに、通りから見上げたエッフェル塔を思い出した。

 

 

隅田川を越えた向こう側が東駒形。

 

 

 

扉を開けると、青いシャツにタブリエ姿の河村さんが笑顔で迎えてくれた。カウンター前にさりげなくおかれている黒板には、「ウフ・ムーレット」や「ブイヤベース」のようにフランスのビストロさながらのメニューから「ウニのパンペルデュ」のような食いしん坊の心をくすぐるお皿までギッシリ書かれている。“本場フランスでミシュランの星を取ったシェフの店”と聞けば、少し構えてしまうだろうが、ここにはそんな堅苦しさはない。

 

 

 

エタップの黒板メニュー。

 

 

 

東駒形は、河村さんには縁もゆかりもない土地。なぜ、この場所に?と不思議に思って聞いてみると、“東京で店を出すなら下町”、と決めていて、この物件をみたときにピンときたという。理由は「下町って人があったかくて、優しいイメージがあったから」。その下町ながらの緩やかな時間に呼応するように、この店にも温かい雰囲気が流れている。それは河村さんが辿ってきた料理人人生のなかで自然と培われてきた、オーラのようなものから生まれているのかもしれない。

 

 

 

店内はカウンターと四人がけテーブルがひとつ。

 

 

 

河村さんが料理人になったのは、高校時代、ファミレスでバイトをしたことがきっかけだった。

 

大阪の淀川区で生まれ育った河村さんは、働いていた母親に代わってごはんを作ってくれたおばあちゃんの料理で育った。水炊きや煮物、お好み焼きやたこ焼き、曰く「茶色い食べ物」ばかりの食卓。初めてのバイト先のファミレスでいろんな料理があると知り、料理の仕事に興味を持った。高校を卒業し、そのままホテルのレストランに就職。5年働き、ホテルでフェアをやっていたフランス人シェフに刺激を受けて、本場フランスで料理を学んでみたいと、180万円貯めて渡仏した。

 

ところが、そのフランスでの滞在がとんでもなく大変だった。なんとかなると思って行ったはいいが、言葉も話せない、地理もわからない。思っていたアテも外れて職を探している間に貯めたお金は半年であっという間になくなった。フランス語を学ぶ場で知り合い、付き合ったフランス人の彼女の家に転がり込み(彼女がのちに今の奥様になる)、職を探し続けていたときに、知り合いから【タイユヴァン】での働き口を紹介される。そこからビストロ【ル・クールブイヨン】【キ・プルーム・ラ・リューヌ】での仕事につながり、そこでフランス料理の基礎や技法や考え方を身につけていく。

 

 

 

「ウニのパンペルデュ」は卵液にウニを溶き混ぜてつくるフレンチトーストのような料理

 

 

 

「フランスは、“ちょっといい加減”な感じが肌にあったんだと思います。外国人だとバカにする人も多かったけれど、それ以上に、助けてくれる人がいつもいた。あるとき、フランス人の同僚に、フランスには『困ったことがあっても、必ず解決方法がある』という言葉があるって教えてもらったんです。つまり、“深く考えるな、人生楽しめ”ってことなんですけどね。この言葉に助けられました。どうせやるなら楽しまなきゃって、バカンス中にアメリカの【イレブン・マジソン・パーク】やデンマークの【ゲラニウム】などにも短期で行って、ガンガン気になることにチャレンジしました」

 

苦しくもあったけれど、それ以上に自分を楽しく成長させてくれたパリ。【エタップ】の料理には、パリで河村さんが吸収した、楽しさや、驚きや、喜びがさまざまなエッセンスとして散りばめられている。チョリソーが隠し味の濃厚でワインがすすむ「ブイヤベース」や、「ウッフ・ムーレット」などは、河村さんがおいしくて忘れられない修業先のレシピを再現し、「ウニのパンペルデュ」もそのころのレシピをヒントにアレンジしたものだ。

 

 

 

「サラダコンポゼ」。

 

 

 

河村さんがオーガニックの野菜をふんだんに使うのも、パリで働いた経験から。

 

勤めていた【キ・プルーム・ラ・リューヌ】のシェフ、ジャッキー・リボー氏は、オーガニック野菜にこだわり、それをどう生かすかということに心を砕く人物だった。ある日、河村さんがアスパラガスの下ごしらえをしようと、ハカマをはずし、根元の硬い部分をカットしたところ、鬼の形相で「おまえ、今何をした!」と怒鳴られた。「ここは硬いので」と答えたところ、「おまえはアスパラのことをなにもわかってない。はかまの硬い部分、苦い部分は野菜の個性だ。個性を捨てるというのは、野菜の輪郭が無くなるということなんだ」と教えられた。その言葉にハッとさせられた河村さんは、以来素材の“個性”にどう向き合うか、より真剣に考えるようになったという。

 

 

 

ある日の『よつばfarm』さんから届いた野菜たち。この日は卵も入っていた。

 

 

 

だからこそ、河村さんは素材を大切に考える。

例えば野菜は、探しに探して、インスタグラムで“おいしそう”と見つけた『よつばfarm』のオーガニック野菜を使用。週によって野菜の内容が変わることが、季節を感じて楽しくて、都度、味の感想を生産者に伝えるのだそうだ。すると、それに答えるかのように、次の荷の野菜がちょっと多く送られてくる。そんなやりとりがたまらなく嬉しく、日々、その季節が育む野菜それぞれが持つ個性をどう生かそうかと考え、調理すると話してくれた。それは野菜だけでなく、すべての素材に通じている。

 

 

「ジビーフのロースト」。

 

 

 

一流の料理人から熱烈な支持を得ている精肉店『サカエヤ』から仕入れている肉類も、その肉の良さを見極め、調理法を決める。この日届いた「ジビーフ」の、まるで干し肉のような深紅の赤身肉を、アロゼしながら芯はほんのり温かくかつ、レア感が残る状態で絶妙に焼き上げていた。シンプルに塩だけで調理された噛み締めるごとに深みが増す味わいは、たっぷりの野菜の香りや苦みや甘みを添えることで、ますます生き生きと感じられる。

 

合わせるワインは、河村さんが好きだと思う、フランスを中心としたもの。今流行りの自然派などに傾倒することなく、素直に“おいしくて、お客様が飲みやすい値ごろ感のもの”を揃えている。こうした気取りのないワインを、シンプルで奇をてらわない直球なフランス料理と合わせれば、しみじみと幸せな気持ちになる。その幸せな気持ちを味わいたくて人々が集まってくるのだろう。

 

 

 

ある日のワインのラインナップ。

 

 

 

どの料理も、なにげないのに、ハッとするおいしさで、おもわず顔がほころぶ。そんな「日常のちょっと上質な時間をすごしてもらえたら」という河村さんの思いが溢れる料理に、早くも地元のファンも多い。

 

「お店の前を通りかかる近所の人や、お世話になっているクリーニング屋さんが、いつも覗いてくれるんですよ。『ちゃんとやっている? 大丈夫? 食べに行くからね』と予約を入れてくれたりして。ありがたいですね」。

 

おいしい料理に舌鼓を打ちながらふと見渡すと、まわりのお客さまも実に楽しそうに料理を食べている。【エタップ】にあるのは、シンプルでおいしい料理とワインと温かな人との繋がり。それは、今の時代、そしていつの時代も、何よりも心を豊かにする贅沢なことなのかもしれない。

 

 

 

Étape(エタップ)

住所:東京都墨田区東駒形2-21-6

電話:03-5809-7452

営業:12:00〜14:00(土・日曜のみ) 17:00〜22:00

定休日:水曜日

 

 

 

「エタップうめぇ~!」

 

 

 

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