LUCA AVITABILE ルカ・アヴィタービレ
2019.05.01
世界のウェルドレッサーたちを虜にしたルカ・アヴィタービレの「フライデーポロ」
ルカ・アヴィタービレ。1980年生まれ。1946年、祖父母がナポリ中央駅前にス ミズーラのシャツ工房アヴィタービレを設立。1970年にサンジョルジオ・ア・クレマーノに移転し、父が加わってプレタポルテに舵を切り、ルカは15歳からシャツ職人の道に入る。2002年にアヴィタービレは廃業。メローラ エ デ・レーロ(2002年~)、サトリアーノ チンクエ(2008年~)と経験を積み、2014年~に自身のカミチェリア「ルカ・アヴィタービレ」を始動。
ルカ・アヴィタービレと初めて会ったのは2010年で、ガブリエッラ・デ・レーロ(元メローラ エ デ・レーロ)と組んでビスポークのシャツを手がけていた頃だった。マリネッラの店があるリヴィエラ ディ キアイア通りから小さな路地を入ったヴィーコ サトリアーノの5番地(チンクエ)にあるから、ブランドの名前は「サトリアーノ チンクエ」。ガブリエッラはオートクチュール的なレディースに専念し、メンズのビスポークシャツはルカが担当していた。ルカがその前に働いていた、一本隣のカラブリット通りにあるメローラ エ デ・レーロのシャツが僕のお気に入りだったこと(巻き縫いの細さと首のフィット感がすばらしかった)、彼らのショールームがさっぱりとてもかわいらしかったこと、それとマウリツィオ・マリネッラからのルカの実力に対するお墨付きもあって、僕は大きな期待とともにルカのシャツをビスポークしたのだった。
はたして、ルカがよしとするフィッティングのバランスのよさ、ディテールの隅々にまで行き届いた美意識の高さ、柔らかさを大切にした仕立て、精緻なミシンのライン、品のよい手縫い、それらの要素が見事に調和した、クリーンで端正で洗練された顔のシャツに、僕はどっぷり惚れ込んだ。ナポリのシャツによく見られるオラオラな主張は皆無だった。
「30歳になったばかりの青年が、これほどまでの控えめのエレガンスを表現できるとは、なんてすばらしい!」
僕はこのとき、ビスポークのシャツは今後ずっと彼に作ってもらおうと決めたのだった。
ルカは2014年、満を持して完全に独立し、自身の名を冠したカミチェリア「ルカ アヴィタービレ」をサルトリア ソリートと同じトレド通り256番地のパラッツォ ベリオ内に構えた。注文を重ねてお互いのことをよく理解しあえるようになると、より自分らしいオーダーができるようになり、僕はますますルカのシャツのファンになった。翌2015年、僕はTHE RAKEのイタリア駐在員としてナポリを拠点にしていたこともあり、ルカのシャツはより身近な存在になった。
トレド通り256番にあるショールームにて。ミニマルで洗練された内装からも、彼の卓越した美意識が伝わってくる。着分の生地は、ルカのスタイルを象徴するカルロ リーヴァやアルモなどの白と淡いブルーの無地やクラシックな柄を揃える。
ナポリのシャツは手縫いの工程を交えながら、作り手の物語をどう展開していくか、そこに面白さがあると思っているのだが、手縫いに頼りっきりになると抑揚のない退屈なストーリーになりがちだ。実際、それに陥っているメーカーは少なくない。ルカのシャツは手縫いを主張させず、むしろその主張は控えめだ。そのかわり、ディテールのひとつひとつにまで彼の卓越した美意識を息づかせている。だから、彼のシャツはシンプルな中にも抑揚があり、それが着る者にも確実に伝わるのだ。ちなみにルカ曰く、彼のミニマルな美しさのシャツはメローラ エ デ・レーロ時代にミラノへトランクショーに行っていた際、かの地のエレガントな紳士たちのエレガントなスタイルから学び、また、サトリアーノ・チンクエ時代のガブリエッラ・デ・レーロから影響を受けたものだという。
2015年1月のある日、ルカは1枚のポロシャツを嬉しそうに見せてきた。今回ご紹介する「フライデーポロ」だ。
ルカ・アヴィタービレの大ヒット作となった「フライデーポロ」。
カッチョッポリの鹿の子素材は非常に柔らかく伸縮性にも優れている。
オリーブ、白、ネイビーの3色を、アフターアワーズのオンラインショップにて展開。¥38,500(税込)
名前のとおり金曜日にぴったりのポロシャツで、マリネッラで展開されていた「Camicia per Venerdi(金曜日のシャツ)」をヒントに考案したものだという。マリネッラのは、上質なシャツ地を使用したプルオーバーのボタンダウンシャツで、ネクタイをしていればフツウのドレスシャツに見え、ネクタイをはずせば寛ぎ感のある品よいプルオーバーシャツに様変わりする昼夜兼用のヒット作。一方のフライデーポロは、よりリラックス感を出しながらもジャケットと合わせてスポーティに、上品に着られる、台襟付きの長袖ポロシャツだ。大ヒット作となり、今日、世界中のウェルドレッサーたちに愛用されているので、ご存じの方も多いだろう。
ビスポークシャツと同様に、ナポリ郊外ヴェズヴィオ山麓パルマ カンパーニアの工房で仕立てられている。通常のドレスシャツは8工程が手縫いなのに対し、こちらはボタン付け、ボタンホール、ガゼット、アームホール、剣ボロのカンヌキの5カ所が手縫い。ナポリの生地卸問屋カッチョッポリの鹿の子素材は、柔らかくストレッチ性も備え、大変着心地がよい。
シンプルなので使い勝手が大変よく、特に出張や旅行時に重宝する。春、夏、秋と3シーズン使え、機内でもラクだし、レストランに行く際も、ジャケットを1枚羽織れば、それだけで絵になる。
ベーシックな白とネイビーの使い勝手がいいのは言うまでもなく、ルカもイチ押ししているオリーブの使い勝手が大変よい。一度でも着ていただければ、真の上質を知る世界中のウェルドレッサーたちに愛されている理由が、お分かりいただけると思う。
写真・文 藤田雄宏