夫はビスポークシューメーカーの久内淳史さん。夕夏さんが手がける Il Quadrifoglio のベルト

2023.01.20

イタロジャポネーゼの久内淳史さん。奥様の夕夏さんが手がけた Il Quadrifoglio のベルト

僕がナポリを拠点にしていた2015年、イル クアドリフォリオの久内淳史さんと夕夏さんご夫妻がイタリア旅行中にわざわざナポリまで訪ねてきてくれた。せっかくなので下町のリオーネ サニタという地区をご案内したら、2人とも僕よりずっとイタリア慣れしているはずなのに口をポカ~ンと開けてたっけなぁ(ちなみに僕の妻も改めてポカ~ンとしてました)。

 

サニタはナポリ中心部では最もユニークなエリアで、バイクのノーヘル2人乗り、3人乗りは当たり前。なんとも器用な4人乗り、サーカス顔負けの5人乗りも珍しくはない、“劇場ナポリ”をギュッと凝縮したようなところなのだ(危険なエリアといわれてきたけれど、ここ数年でだいぶ観光客が訪れるようになったみたいだし、危険というよりはカオスがムンムン匂い立っているな感じかな。ナポリではスカンピアとかセコンディリアーノ地区のほうが100倍ヤバいと思う)。

 

 

ふたりでゴルフのレッスンに通い始めたという仲よしご夫婦、久内淳史さんと夕夏さん。

 

 

 

YouTubeから拾ってきたサニタ(Sanità)。バイクがビュンビュン。ここでは無免許、無保険、ノーヘルがデフォルト。なんですが、お洒落でライトなピッツァをコースで出すなど、今日のピッツェリア ナポレターナにおけるトレンドを創り出したConcettina ai Tre Santiや、ピッツァフリッタが人気のIsabella De Chamとか、実力派のピッツェリアがひしめいている。あとはPoppellaのFiocco di Neve(ブリオッシュ)も最高。だからナポリは面白い!

 

 

 

 

サニタのカオス感には引き気味だった久内淳史さんだが、彼は僕が知る中で最もイタリア血中濃度が高い靴職人のひとりだ。

 

トスカーナを思わせる新神戸の素敵な工房を訪ねるといつもイタリアのラジオがかかっていて、店内の隅にドゥカティの ムルティストラーダ 1100 S が鎮座している。愛車はランチア デルタとフィアット バルケッタ。もう、直球ド真ん中なイタリア愛!

 

と、ここで話は終わるはずだったが、久内さんとの食事の席でその話をしたら、ニヤニヤしながら「実は2台とも手放して新しいのを購入したんです」と。まさかのドイツ車と思いきや、アルファロメオのジュリアだという。お~っ、またまたイタリア! やはり期待を裏切らない男だなぁ(笑)。

 

 

 

そんな久内さんを『THE RAKE』(issue24  2018年)の靴特集で紹介したときのこと。他のどの靴職人も制作風景の写真ととともに紹介されているのに、久内さんのページだけは作業写真がなく、代わりに工房でドゥカティのムルティストラーダ 1100Sに腰かけている写真が載っていて、「僕だけバイクと一緒にキメ顔してアホですわ~(笑)」と冗談で泣かれたことがあった。

 

 

 

こちらが久内さんに泣かれた『THE RAKE』(issue24)の紹介記事。確かに靴を制作している写真が一枚もない(汗)。久内淳史さんのプロフィールを簡単に紹介すると、1979年兵庫県生まれ。2007年よりフィレンツェにわたってロベルト・ウゴリーニ氏のもとで修業。2011年に帰国し、2012年にイル クアドリフォリオを始動。

 

 

ちなみにこの号では、以下のような内容を書いた。

 

人生を謳歌している靴職人を“イタリア 式”と呼んでいる。長年いろいろな職人を見てきた経験から個人的見解を言わせ てもらうと、イタリア式の職人は、若ければ若いほど伸びしろが大きい。職人が作る靴にはその人の人生が何かしらの形で表れる。美しいもの、素晴らしいものに触れ、日々感動を味わっていると、 感性が磨かれ、創造力が豊かになり、自身の靴作りに表現の一手段として無意識のうちに反映されるのだ。

 

 久内淳史氏のことはイタリアでの修業 から帰国してすぐ、2012年のデビュー時から知っているが、彼は典型的な“イタリア式”だ。当時の彼は今ほどの確かな腕はなく粗削りな感じがあったが、自由でスケールが大きく、将来化ける大きな可能性を感じさせた。それは彼の絶対的な長所であり、経験を積んでいけば、技術はあとからついてくると思った。実際、腕はメキメキと上達した。今では、溢れる創造力をきれいにまとめる術も身につけた。 ブラッシュアップされた個性が、彼の靴をさらに魅力的なものにした。

 

 氏の仕事に華を添えるのは、イタリアを中心に仕入れているこだわりの個性的な革たちだ。バッファロー、エレファント、型押しの馬革ほか、さまざまな色・素材感のものがある。デザインと革の組み合わせを久内氏と考えるのは、ここでオーダー する愉悦だ。

 

 昨年、自身の立派な工房を新神戸駅前に構えた。美しい靴を作るために心地よい空間で仕事をしたかったから、テラコ ッタの床や壁の色など大好きなイタリアの薫りがする内装に徹底してこだわった。「欲張りなのかもしれませんが、靴作りも本気で楽しみたいし、誰よりも人生を楽しみたい。このふたつの面でいちばんの職人であり続けたいんです」

 

 いちばんの靴を作りたいとは言わなか った。常に楽しく生きていれば、自分の靴がいちばん輝いた存在になると、彼自身 がわかっているからだ。

 

 

 

 

 

2012年から感じていた

久内淳史さんの大きな可能性

 

THE RAKEに書いたとおり、久内さんがフィレンツェでの修業を終えて帰国してすぐ、2012年からイル クアドリフォリオの靴を見てきた。初めて見たときの久内さんの靴はまだ粗削りだったけれど(本人もそう言っている)、4年間のイタリア修業生活の中で自身の中に吸収してきた美の感性の、大胆な発露があった。未熟さを補って余りある将来性の高さ、大きな伸びしろに、大いなる魅力を感じた。経験を積んでいけば、技術は自ずとついてくるものだ。

 

あれから10年。経験を積んだ今の靴は、当時の僕が思っていたとおり、仕事は格段に美しくなった。が、スケールの大きさ、すなわち作品から感じる自由さはそのまんまだ。いつも楽しく生きていて、たくさんの趣味を持っていて、そういった経験からくる人生観や美意識が作品にも反映されていて、しかも久内さんらしい”な感じがたっぷり宿っているのが、イル クアドリフォリオの靴の魅力だ。そんなわけで、クールな顔してドゥカティに跨っている久内さんのほうが、らしさが断然引き立つと、そのときの僕は思ったのだ。

 

 

ムルティストラーダ1100Sにまたがる久内氏。いいなぁ、この感じ! ポロシャツはルカ アヴィタービレ、ジーンズはヤコブ コーエン。イターリア!

 

 

 

ビスポークの靴を注文するお客さんからしてみれば、久内さんみたいな楽しい人とは話が弾むだろうし、会話のなかでビスポークに向けての気持ちが盛り上がっていくことは容易に想像できる。じゃあこういうのを作ってもらおうかな、という流れで発展がありそうだし、特別な時間をより楽しめるのではないかな、と思うのだ。

 

 

今回の主役は奥様の夕夏さん

ところで、今回ご紹介したいのは奥様の夕夏さんだ。THE RAKEでは夕夏さんについては触れていなかったのでご紹介させていただくと、2007年に渡伊した久内淳史さんを追いかけて、2009年にフィレンツェに渡った。そして、サンタ・マリア・ノヴェッラ駅から程近い、パラッツォオーロ通りにあるIl Bussetto(イル ブッセット)で修業し、絞りの革製品作りを学んだ。

 

 

イル クアドリフォリオの工房で絞りの革小物を手がけている夕夏さん。

 

 

帰国後、夕夏さんもイル クアドリフォリオの工房に入って、主に絞りの革小物やビスポークのベルトを担当しているのだが、それがとても秀逸なのでアフターアワーズでぜひ扱いたいたいと思い、お願いしてベルトを作ってもらった次第だ。

 

イル クアドリフォリオでベルトを作る醍醐味は、ひとつは久内さんがイタリアで買い付けてきた、表情豊かでユニークな革が揃っている点にある。そして、夕夏さんの手仕事による丁寧な作り。工場生産のベルトにはない、とてもいい表情を醸し出している。

 

 

クードゥー×真鍮バックル。

 

 

クードゥー×シルバー925バックル。

 

 

ホーウィン社の馬革の型押し「アーリントン」×真鍮バックル。

 

 

牛革の型押し×シルバー925バックル。

 

 

エレファント×シルバー925バックル。

 

 

といった感じで、イル クアドリフォリオのビスポークシューズに使われている珍しい革を使って夕夏さんに作ってもらったベルトは、まず革の個性が光っていて、縫製もきれいでオーラもあって、もう最高! 自分でもガンガン愛用していますが、使って改めて素敵なベルトだなぁって思っています。

 

ぜひぜひオンラインショップをチェックしてくださいませ~!

 

 

Qさん、1962年製のドゥカティ ダイアナ250を手に入れたそうで、羨ましい! というわけで、工房には2台のドゥカティが飾られている。

 

 

撮影・文 藤田雄宏

 

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