MARIO TALARICO マリオ・タラリコ
2019.05.01
御年86! ナポリのマリオ・タラリコじっちゃんが作ったレモンと栗の傘
1860年に創業したマリオ・タラリコの4代目マリオ・タラリコ氏。11歳から傘作りの世界に入った。
THE RAKE JAPANの(ひとり)イタリア支局員という名のもとにナポリに住んでいた2015年、語学学校からの帰り途にスペイン地区のお気に入り食堂「サンフェルディナンド」で昼食をとるのが日課だった。トレド通りの路地を入ってすぐのマリオ タラリコの店は、食堂までの徒歩20分の途のちょうど中間にあったので、毎日のように前を通っていた。中に入るのは月に2~3回だったけれど、気付いたら結構な数の「マリオ タラリコ」コレクターになっていた。
店はナポリの目抜き通りであるトレド通りから路地を入ってすぐにある。
店には10年ちょっと通っているが、そこでの光景はいつも同じだ。朝9時から夜7時まで、4代目で86歳のマリオ・タラリコじっちゃんと甥で5代目のマリオ・タラリコ Jr.は(名物食堂のカメリエーレのように)いつも店にいる。じっちゃんは入り口のすぐ左に年季の入った小さなテーブルの上でコツコツ手を動かし、ジュニアはカウンター内で店番をしながら生地張りや仕上げをこなしている。
マリオ・タラリコじっちゃんの指定席。前のテーブルはじっちゃんの父親の代から使用している。
傘が所狭しと並ぶ店内は3人も入ればカオスに陥るが、晴れていようが雨だろうが客はいつもひっきりなしにやってくる(すなわちいつもカオスだ)。雨の日には5ユーロの傘(安い傘も売っている)がポンポン売れ、晴れた日にはナポリの名士たちが散歩ついでにオーダーしに訪れる。2世代にわたって使っている傘を修理に持ち込む人も少なくない。タラリコの客層は老若男女を問わず本当に幅広い。ダ ミケーレやスタリータ、ソルビッロやディ マッテオ、マサルドーナといった超人気ピッツェリアと同じくらい、ナポリ中の皆に広く知られ、愛されている店なのだ。
ちなみにマリアーノ・ルビナッチ氏やマウリツィオ・マリネッラ氏もタラリコが手がけた傘を自身の店で扱っているほどのタラリコファンだし、ヨットクラブカプリの名誉会長マッシモ・マッサッチェーシ氏はこれまでに50本以上をオーダーしている自他ともに認めるタラリコマニアだ。
絵の才能に長けた5代目のマリオ・タラリコ Jr.はマリオじっちゃんの甥にあたる。
雑多な店内、マリオ・タラリコJr.のフランクなナポリ訛りも手伝って、タラリコの傘はナポリのどのブランドにも増してナポリ的だが、シャフトからの一本木を曲げて作られたハンドルは、喜怒哀楽が豊なナポリ人の顔の表情のように肌目が表情豊かでこれまた実にナポリらしい。中でもオススメしたいのは、リモーネ(レモンの木)とカスターニョ(栗の木、チェスナット)。リモーネはソレント、カスターニョはベネヴェント産で、どちらもナポリ近郊の木を用いているところがその理由だ。
リモーネは春や夏に使って季節を表現してもいいし、あるいはチェックのジャケットを合わせた装いに大変しっくりくる。カスターニョはエレガントなスーツスタイル、あるいはネイビーのジャケットなどと相性がよさそうだ。
どちらの木の傘も僕はとても大好きすぎて、皆さんにも使ってもらい思いが強く、今回アフターアワーズで作ってもらった。
リモーネ(レモンの木)を使用した傘。アフターアワーズで購入可。SOLD OUT
ナポリ近郊ベネヴェント産のカスターニョ(栗の木、チェスナット)を使用した傘。アフターアワーズのオンラインショップで購入可。SOLD OUT
ちなみにタラリコの傘をもっていると、雨の日がそこまでいやではなくなる。
大好きな傘を使えるからだ。
そう考えると、タラリコの傘って決して高い買い物ではないんですよね。
写真・文 藤田雄宏