仕立てのあくなき探求者、ALFONSO SIRICA <アルフォンソ・シリカ>

2021.08.30

あくなき探求者、ALFONSO SIRICA <アルフォンソ・シリカ>

アルフォンソ・シリカはナポリ人らしくとってもお茶目で、

 

僕が愛してやまないカルロ・ヴェルドーネのような雰囲気だ。

 

2014年に初めて会ったときは強烈なキャラクターのほうが勝って気づかなかったけれど、

 

改めて話を伺うと、仕事への向き合い方が素晴らしすぎるではないか。

 

今なお少年のようにピュアなハートにズキュンときてしまった。

 

 

 

 

原稿・藤田雄宏  写真・吉澤祐輔

 

 

アルフォンソ・シリカは1962年1月2日、ナポリの東40㎞ほど、ヴェズーヴィオ国立公園を越えたところにあるサン・ヴァレンティーノ・トーリオで生まれた。ウィメンズの服を友人たちに仕立てるのが趣味だった母親が日々深夜まで針を握っているのをずっと見て育ったアルフォンソは、6~7歳のときには当たり前のようにミシンで遊んでいたそうだ。10歳のときには祖父が着ていたスーツを分解して従兄に仕立て直してあげたそうで、その仕事の完成度があまりに高く、母を大いに驚かせたという。

 

 

 

 

 

11歳からは、サン・ヴァレンティーノ・トーリオや隣町のサルノのさまざまなサルトリアを渡り歩き始め、18歳までのあいだ、ひたすら腕を磨いた。

 

 

18歳になると裁断を改めて学ぶため、ナポリの中心部トレド通りにあったNicola Fuschillo(ニコラ・フスキッロ)氏が主宰する仕立て学校に通い始めた。と同時にナポリ市内のさまざまなサルトリアを訪ねては手ほどきを乞うてきたそうで、有名なところではコンバッテンテ(オオッ!)やソリート(ジェンナーロの父ルイージかな?)がとても親切に教えてくれたという(こういうのを聞くとワクワクするなぁ!)。8カ月後、アルフォンソはフスキッロの仕立て学校を首席で卒業し、19歳でサン・ヴァレンティーノ・トーリオに、わずか16㎡と小さいながらも自身のサルトリアを構えた。

 

 

 

ニコラ・フスキッロの仕立て学校で使っていた教科書。

 

 

左から3番目がニコラ・フスキッロ氏。

 

 

 

以来、地元を中心に、ミラノやローマなど、イタリア国内のお客さんに今日までナポリの伝統的なスタイルの服を仕立て続けてきた。日本では世界で唯一プレタポルテが展開されているが、シリカの形態は今なお完全なサルトリアであり、彼らがしている仕事の中身から見れば、スーツで30万円前後というのは破格といえよう。

 

 

 

シリカの工房では6名のサルタが働いている。サン・ヴァレンティーノ・トーリオやその隣町サルノの一帯は、かつてはカサルヌオーヴォのように仕立ての聖地として知られ、数多くの凄腕サルトたちがひしめいていたという。

 

 

 

「サルトの服は一生モノと言われますが、私は時代に合わせてフィッティングやデザインのバランスを少しずつ変えてきました。自分の仕事が最高なのではないという問いを常に自分自身に投げかけていて、まっさらな気持ちで仕事に臨むようにしています。その姿勢は今も昔もまったく変わりません」

 

 

ナポリでは「オレの仕事がいちばんさ! オレは世界一のサルトなんだ!」というセリフをさんざん聞かされてきたので、アルフォンソの姿勢にはすごく好感がもてる。日本と仕事をするうえで、常に進化していこう(進化していきたい)という気持ちをもっているサルトはこちらのリクエストを上手く汲みながらアップデートされたスタイルを作り上げてくれるので、常に今を捉えた服が生まれるというわけだ。

 

 

 

アルフォンソは大のピッツァマニア。好きなピッツェリアを尋ねたところ、あがった名は、Da Michele, Gino Sorbillo, 50kalò, Staritaいった王道の名店。で、最後にはカイアッツォの超人気店Pepe in Graniの名も! 今まで優に150を超えるピッツェリアを食べ歩いてきたという。ちなみに僕が好きなのは、Starita, Da Michele, La Notizia, そしてピッツァ フリッタのLa Masardonaだ。

 

 

Purpetta e’ pastenaca, la bontà di San Valentino Torio Fuoriporta

ちなみにシリカがあるサン・ヴァレンティーノ・トーリオの郷土料理といえば、‘a purpetta ‘e pastenaca(アグロ・ノチェリーノ-サルネーゼ産のパースニップ<白にんじん>のポルペッタ)。これがめちゃくちゃおいしいんだよなぁ! サルノ一帯はカンパーニア州きっての農業地帯で、チポッロット・ノチェリーノ(ノチェリーノ産の小たまねぎ)やサン・マツツァーノ種のトマトの生産で有名だ。

 

 

 

 

 

 

 

「サルトは常にクリエイティブでなければなりません。何十年ものキャリアがあっても仕事からは日々学びがあり、その中で我々は常に進化していかなければなりません。そして我々はサルトリア ナポレターナという偉大な文化の担い手でもあります。常にベストを尽くし、お客様に文化レベルの喜びを与えるのが我々の仕事なのです」

 

 

アルフォンソの自宅はサルトリアの上階ということもあり、ふと新しいひらめきが湧いてくることが今でもあって、真夜中だろうと明け方だろうと下に降りてハサミを握ってしまうこともしばしば。サルトという職業は仕事であって仕事ではなく、彼の人生そのものなのだ。

 

 

そして、嬉しいことに、サルトリアには息子のファビオが後継ぎとして入っている。僕が2014年に訪れたときはファビオはまだ19歳の若者で、工房では父アルフォンソから猛特訓を受けている真っ最中だったが、今はサルトとして大変立派に成長した。

 

 

 

アルフォンソの息子ファビオ・シリカ。

 

 

 

2014年3月に訪問したときに撮ったファビオ。当時はまだ19歳だった。サルトの道を志したのは2012年頃だが、6歳から工房に出入りしていて、夏休みになるといつも針を握っていたという。今も勉強を続けながら、経営、マーケテイング&コミュニケーションにも携わっている。

 

 

 

 

ちなみに2014年のアルフォンソ・シリカ。

 

 

 

「素晴らしい経験をもっているのに、今なお学びの姿勢が貪欲で、常に新しいことを貯め強いている父のことを大変尊敬しています。サルトの道は一生学びであるということを胸に、自分も一歩一歩階段を上っていきたいと思っています」とファビオが言えば、「私が成し得なかった、世界中の人々にシリカの服を着てもらうという夢を、息子には実現してもらいたいですね」とアルフォンソ。

 

 

アルフォンソは「成し得なかった」と口にしたが、そう決めつけてしまうのは時期尚早だ。アルフォンソはサルトとしてあと20年は働けるだろうし、新しい感覚をもったファビオがサルトリアに新しい息吹をもたらしてくれる。日本で仕事するには最強の、ノブさんこと冨士原伸吉さんという最強のパートナーだっている。愛に満ちた3人が生み出す最高の仕事が、アルフォンソ・シリカが世界へと羽ばたく大きな足がかりになるような気がしてならないのだ。

 

 

この写真、いいなぁ。父の愛を感じる!

 

 

ノブさんこと冨土原伸吉氏。9月から今年3回目のナポリに足を運ぶ予定。この状況下でも最善を尽くすノブさんに対するナポリの職人たちの信頼は非常に厚い。思えば2014年にシリカを訪ねた際も、ノブさんと一緒だった。

 

 

 

ビームス別注によるこちらは、ゆったりめのフィッティングで、着丈を長めにして胸回りにもボリュームをもたせた作り。生地はサヴィル・クリフォードのフランネルで、450g/m。スーツ¥346,500 問い合わせ先:Beams Roppongi Hills/Tel.03-5775-1623 タイ¥18,700 Francesco MarinoAfterhours シャツは私物

 

 

 

マニカ・カミーチャ仕様。

 

パンチェリーナがついたトラウザーズは、あえてのジップ仕様。

 

 

 

こちらもビームス別注。生地はヴィターレ・バルベリス・カノニコのカヴァートクロスで、440g/m。ダブルステッチでマニカ・カミーチャ仕様。ナポリの土着的な仕様を踏襲している。スーツ¥330,000 問い合わせ先:Beams Roppogi Hills/Tel.03-5775-1623

 

 

 

 

 

趣味はスカイダイビング、乗馬、ハンティング、自転車、バイクと多彩だ。リラックスした時間が生むリフレッシュがによって常に気持ちをリセットし、よりよい仕事を生むという考え方は、まさにイタリア人そのものだ。

 

 

 

最近までセスナを所有していて、自身の操縦でカラブリアまで飛行したこともあるという。

 

 

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