Afterhours

Articles

2025.08.29

大平智生、フィレンツェが愛した鞄職人 Trunk Show Schedule

東京のど真ん中、渋谷区千駄ヶ谷で生まれ育ち、1995年にフィレンツェに渡った。

そこから本格的に鞄作りを学び始め、2006年に自身の鞄ブランド「Cisei(シセイ)」をスタート。

日本人の感性とイタリアの美意識、その交差点に立ち続ける職人、大平智生氏

 

 

大平智生 Chisei Ohira

1973年、東京都生まれ。1995年、建築・工業デザインを学ぶべく、イタリア・フィレンツェに渡る。が、彼の地で出会った鞄職人の仕事に興味を覚え、鞄のパターン製作を学び、鞄職人を志すことに。チェッレリーニなど4つの工房で経験を積み、2006年に自身のブランド「Cisei(シセイ)」をスタート。今もフィレンツェ市内に工房を構え、2026 年、ブランドは創業20周年を迎える。

 

 

 

 

 

 

 遠くフィレンツェで静かに響く、大平智生という感性

饒舌に多くを語るタイプではないし、何かを強くアピールするタイプでもない。景観を鏡のごとく水面に映し出しながら、静かに揺らいで深みのある、夜のアルノ川とどこか重なる。

 

取材の前夜、大平智生氏と「ココレッツォーネ」で夕食をともにした。フィレンツェを訪れた際の楽しみのひとつが、このトラディショナルなトラットリアでの食事だ。“ココ”の料理は飾らず明快にシンプルで、豪快で、いつ行ってもおいしい。セブンフォールド グローバル社の加賀健二氏と白石知子氏、大平氏とはフィレンツェで知り合った1996年からの仲であるスピラーレの神藤光太郎氏ともに、豪快に食べ、程よく飲み、楽しい夜のひとときを過ごした。

 

翌朝、サンタ・マリア・ノヴェッラ地区のホテルからアルノ川の南岸にあるシセイの工房まで、30分ほど歩いた。

サルトリア コルコスの目の前のゴルドーニ広場からカッライア橋を渡ると、シセイが工房を構えるエリア、オルトラルノ(アルノ川の向こう側)だ。町並みを鏡面のように映し出す水面を眺めながら、昨晩を思い出す。アルノ川も、トスカーナ料理も、大平氏のイメージと妙に重なってくる。取材を前に、ふとそんなことを思った。大平氏は、静かに、超フィレンツェなのである。ミラノでも、ローマでも、ましてやナポリでは絶対ない。彼ぞ、フィレンツェなのだ。

なんせ、ここに住んでもう30年になるのだから。

 

 

1973年生まれ。東京の渋谷区千駄ヶ谷で育った。16歳のとき、革のパンツを自作したら、それが思いのほかよい出来だったことが、彼の人生を静かに動かし始める。それを見た母親から「鞄を作って」と頼まれた。それが、初めての“鞄作り”となった。工業デザインを学んだ高専卒業後も、誰に習うでもなく趣味で作り続けていたが、職に就かなければという焦りも芽生えてきた。が、当時は就職氷河期真っ只中。「いったん外に出てみよう」と思い立つ。イタリア生活を経験している高専時代の教師の影響で身近に感じていたイタリアにて、建築・工業デザインを学ぶことにした。1995年、フィレンツェに渡った。

 

「当時は小さな鞄工房が街のそこかしこにあり、通るたびに自然と足が止まっていたんです。そのうち店主と顔見知りになって、足繁く通うようになりました。善意で教えてもらっていたのですが、それまでは完全な自己流だったので、こうやって作るんだとか、さらには鞄作りが仕事になるんだ(笑)、というのがわかって大変勉強になりました」

 

興味は俄然、鞄作りへとシフトし、学校に入ってパターンを学ぶことにした。型紙を覚えたら、今度は作るほうだ。工房を併設した土産ものの鞄店に入り、客が来たときは接客し、普段は工房内で鞄を作っていたという。そこでの仕事で経験を積んだのち、キャリアアップ。職人・パタンナー・生産管理として、自分で作り、工場も使い、デザイナーともやりとりし、鞄作りの仕事を多角的に学んだ。さまざまなメゾンとの仕事でノウハウを身につけ、気づいたらフィレンツェで9年の経験を積んでいた。

 

 

そして、2004年、チェッレリーニに入る。体系的に鞄作りを覚えたうえで、ここで昔ながらの伝統的な鞄作りを学べたことが、今振り返るととても大きかったという。そのときにミシンや機械を安く揃え、自分の部屋に工房を作り、少しずつ自分のコレクションを作り始めていったという。

 

「あるとき神藤(光太郎さん)が自分のブランドを作れよって。ピッティまでにサンプルを用意してくれたら、ホテルにバイヤーさんを呼ぶからと言ってくれて。本当にセレクトショップの錚々たるバイヤーさんたちを呼んでくれたんです。いきなり400個くらい注文が取れてしまって、だいぶ慌てましたけどね」

 

学びが大きかったチェッレリーニには2008年まで籍を置きながら、2006年、こうして「シセイ」は誕生した。

 

「日本とは物理的な距離があるから、今も昔も日本のマーケットを見ないでいられる環境は大きいかもしれません。見るとやっぱり意識してしまいますから。イタリアの男性ってあまり鞄を持たないんです。だから、イタリアの女性の鞄からインスピレーションを得ることのほうが多いですね。新しいものだろうと古いものだろうと関係なく、お店のウインドウだったり街ゆく女性を眺めながら、これいいなとか、こうしたらもっとよくなるのにとか、そんな感じで閃くことはあります」

 

 

 

そんな大平氏とフィレンツェで96年に出会ったときからの友人である神藤光太郎氏は、彼のことをこう評した。

「日本人である優位性を生かして、マーケットに向けた最適解のデザインを生んだのは、間違いなく智生さんの功績。長年住んでいるから感覚はもうイタリア人だと思うんです。でも、当然ながら日本人の感覚はわかる(笑)。絶妙なバランスで日本のマーケットにアジャストしていった作業って、大変だったと思うんです。偉大な第一人者ですよね」

 

加賀健二氏もメッセージを贈る。

「30年もフィレンツで鞄を作り続けてきたのは並大抵のことではない。そして、これは誉め言葉ですが、ご本人の雰囲気を裏切る鞄(笑)。智生さんはフィレンツェに本当に愛されているんでしょうね」

 

そして、大平氏は静かにこう語った。

「僕の場合、ファッションじゃないんです。スーツや靴はある意味ファッションだけれど、あくまで僕は作り手側。そして、お客様にお渡しして喜んでもらったときよりも、きれいに仕上がったときがいちばん嬉しいんです。喜んでもらえるってその段階でわかるんでね(笑)」

 

アルノ川のように静かで、モノ作りへのこだわりを多くは語ろうとしない。でもアルノ川の水面のように確実に動いており、時折発する言葉には思いが込められていて深みがある。来年、フィレンツェの地で、シセイは20周年を迎える。

 

 

 

Marchio a caldo(マルキオ・ア・カルド)と呼ばれるシセイのさまざまな焼き印。ブランドの長い歴史を物語っている。

 

弟子だったSaicの村田博行氏から渓流釣りに誘われたのを機に、自作したルアー。ちなみに工房には自作のサンドバッグもある(笑)。

 

お父様の大平善生氏が描いた、フィレンツェの街並みが美しいシセイの絵ハガキ。

 

 

大平氏が右腕として頼りにしている一番弟子の岩田絢子氏。彼女もまた、自身の鞄ブランド「Tredici」を立ち上げており、大平氏もサポートしている。

 

 

 

注目したいのは、大平氏本人が手がけるアトリエメイドのCisei+h

「Cisei+h」は、大平氏が自身のアトリエで手がけている、シセイののス ミスーラ。

シセイのアトリエメイドでは、革を乗せ換えるだけでなく、サイズを変更したり、ハンドの長さを変えたり、ポケットを追加したり、それぞれのライフスタイルに応じて、仕様の変更が可能だ(別途料金)。

シセイの鞄には、常にシンプルで力強い美しさがある。

 

 

 

圧倒的な存在感を放っている、超少量限定のパイソンの革を使用したトートバッグ「0940PP」。¥363,000

品番の「PP」は“produzione propria(自社製作)”の略。アトリエメイドを意味する。※納期はすべて約半年~1年。

 

シセイの鞄の表情はとても柔らかだ。そこに大平氏のこだわりがある。同じデザインでも、革が異なれば表情は大きく変わる。柔らかな表情と強度のバランスをどう保つか。1.0mmか1.2mmに漉くか、僅か0.2mmの差であっても、まるで異なってくるという。経験と感覚で、常に最適解を導き出している。

縦型の新作トート「0943PP」は¥275,000~で、独特のシボ感が美しいTesta di Moroを使用したトートバッグは¥297,000。

 

ストラップの長さを調節することで、変幻自在に形・表情を変えられる新作モデル。左の「1286PP」は¥209,000~で、オレンジのトーゴで仕立てたショルダー写真のショルダーは¥231,000, 「1287PP(Lサイズ)」は¥220,000~で、不規則で深みのある美しいシボ、ドライな質感を備えたフランスGustave Degerman社の革を使用した写真のアイスグレーのショルダーは¥231,000。

 

黒のボックスカーフを使用した外縫いのフラップトート「0981CL PP」は¥319,000、トーゴで仕立てたフラップトートミニ「4980PP」¥308,000。

 

左の「1300PP」は¥341,000~で、写真の「ワープロリュクス」は¥385,000。右の「0931PP」は¥330,000~で、写真の「ワープロリュクス」は¥385,000。

 

トートバッグは¥286,000~、革の力強い表情が独特の雰囲気を醸し出している写真の「クロムエクセル」で仕立てた場合は¥308,000~。

 

定番デザインのクラッチバッグ「0934PP」は¥99,000~、写真の「ワープロリュクス」で仕立てた場合は¥132,000。

 

既製品でも人気のデザインをアトリエメイドに落とし込んだバックパックは「1214PP」は¥352,000~で、存在感と高級感たっぷりの写真の「トーゴ」で仕立てた場合は¥396,000。

 

今日のライフスタイルにマッチしており、とても人気があるという巾着タイプ。左の「1203PP」は¥121,000~で、写真の「トーゴ」で仕立てた場合は¥132,000。右の「1204PP」は121,000~で、写真の「LDレザー」で仕立てた場合は¥132,000。

※納期はすべて約半年~1年。

 

 

 

<Trunk Show Schedule>

~8/30(土)12:00~18:00(17:00最終受付)

Cisei Tokyo Show Room 東京都渋谷区神宮前2-22-1-2F

showroom@cisei-firenze.com

 

9/6(土)~9/7(日)12:00~18:00(17:00最終受付)

菅原靴店 宮城県仙台市青葉区国分町1-6-9 M1テラス

sendai@sugawara-ltd.com

 

9/13(土)~9/14(日)12:00~18:00(17:00最終受付)

PINORSO  福岡県福岡市舞鶴3-1-3

sartoriapinorso@gmail.com

 

 

ページトップへ