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2025.07.16
ATELIER BRIO PECHINO Interview with George Wang by Zhang Xiao

George Wang氏(ジョージ・ワン<以下ジョージ>)は、今まで出会った人の中で最も魅力を覚えた人物のひとりだ。
ジョージがオーナーを務めるBrio Beijing(ブリオ ベイジン)がスタートした2015 年、僕はナポリのCasa Rubinacciに住んでいた。当時はナポリを拠点にイタリアのあちこちの都市を回っていて、とりわけミラノにはよく訪れていた。7月だったかな、ミラノのモンテナポレオーネ通りにあるRubinacciのブティックに寄った際、「Fujita-san?」と声をかけてくれたのが、たまたま客として来ていたジョージだった。
そのときは、後に彼が僕の無二の親友になることとは露にも思わなかったが、当時からジョージのことは知っていた。中国きってのウェルドレッサーという認識でいたし、SNSで見る写真からもそのエレガンスは伝わってきていたので、一体どんな人物なのか興味をもっていたのだ。ジョージも僕のことを知ってくれていたので、僕らは思わぬ邂逅を果たしたのだ。
会った瞬間からシンパシーを覚えた。洗練された装いだけでなく、所作や話し方も含めてすべてがエレガントで紳士的でだった。ジョージ自身に、そして、その年にオープンしたばかりの彼のブティックBrio Beijingに、俄然興味が湧いてきた。
1ヶ月後、僕はプライベートで北京のジョージの店Brio Beijingを訪ねた。編集者のサガで、どこかのタイミングで誌面で紹介できればと思い、一眼レフカメラを携えて。滞在中、ジョージとBrioの店など、夢中になってたくさんのシャッターを切った。
その年の11月25日に発売された『THE RAKE JAPAN』誌(Issue7)で、“The 10 Most Rakish Men”という特集を組むことになった。『THE RAKE JAPAN』が選んだ、いま最もホットな10名のウェルドレッサーを紹介するのだが、ジョージを選ばない理由が見当たらなかった。8月に撮った写真は思いのほか早く陽の目を見ることとなり、日本で初めてジョージ・ワンを紹介するに至った。
果たして、誌面に登場したと世界のウェルドレッサー10名の中でも、ジョージはひと際オーラを放っていた。
『The Rake Japan』の2015年9月25日発売号 Issue7 で紹介したジョージ・ワンの写真。ナポリのパニーコで仕立てたスーツにて。当時、ジョージは34歳。
2017年に遊びに行った際に撮った、ジョージのサンフランシスコ郊外ヒルズボロウにある邸宅。2023年の秋からジョージは家族とともに拠点を北京からこちらに移した。
同じくジョージのヒルズボロウの邸宅にて。ここのプールはめっちゃ深くて、水泳は得意なんですが、水が冷たかったのもあって結構ビビりました。
2023年7月にジョージの店を訪れた際にパチリ。こちらが引っ越したあとの新しい店舗になる。
さて、そのジョージに、青島(チンタオ)で自身のサルトリアを営むSartoria by Zhang Xiao(ジャン・シャオ)のZhang Xiao氏がインタビューを行った。彼女は2013年にミラノに渡り、2015年からSartoria Musella Dembechのにて修業した。
僕はそのMusella Dembechで彼女は修業を終え、2019年にチンタオに自身のサルトリアを開いた。ジョージも認める素晴らしいセンスをもっていて、今日Atelier Brio Pechinoでトランクショーを開催し、シャツのプロジェクトを一緒に手がけている。
というわけで、以下、彼女からの寄稿だ。
『アトリエ・ブリオ:10年の匠の精神 集成から独創へ』
インタビュー・文 Zhang Xiao
はじめに
2015年の創業以来、ブリオはダイナミックな10年を歩んできた。紳士服のセレクトショップとしてスタートし、独自のアトリエとテーラーチームを擁する現在へ。スタイルとビジネスモデルの両面で深化を遂げたこの10年は、単なる時間の経過ではなく、ジョージ・ワンの匠の精神と夢が織りなす物語である。革新と品質への執着が生み出すブリオの世界を紐解く。
セレクトショップからアトリエへ:ビジネスモデルの進化
創業者ジョージ・ワンが振り返る。創業当初、ブリオはヨーロッパの紳士服ブランドをキュレーションするセレクトショップだった。イタリアのサルトを招いたトランクショーを定期的に開催。しかし2020年に店舗を移転したのを機に、2021年には自社のアトリエを構える。この転換は単なる販売形態の変化ではなく、創作の自由を手に入れる決断であった。
ハウステーラー杜(と)の成長:修練から創造へ
アトリエの要を担うテーラー杜は、ジョージの審美眼を体現する存在。創業時からブランドと共に歩み、来店する海外テーラーとの交流を通じ、技術と美学の調和を追求。従来の中国式裁縫が抱えていた技術と審美のギャップを埋め、東洋のライン美学を取り入れた独自のスタイルを確立した。
スタイルの確立:シンプルでリラックスした美学
「イタリアンスタイル」や「ブリティッシュスタイル」に縛られない、洗練された流麗なシルエットがブリオの真骨頂。フィレンツェの仕立て手法を基盤としながら、東洋の線条美を融合。古典と現代が交錯する独自の服作りを追求する。
MTOシリーズ:フォーマルからカジュアルへの展開
近年新たに始動したMTO(メイド・トゥ・オーダー)シリーズは、カジュアルウェアの新境地。ジョージ自らが試着を重ね、実用性を徹底検証。顧客からのフィードバックを反映させながら、厳格な品質基準を維持。フォーマルとカジュアルの境界を溶解する新たな表現が、現代のライフスタイルに彩りを添える。
ロゴの進化:新たな物語の始まり
フィレンツェでの象嵌細工職人との出会いが生んだ新ロゴ。スケートボードに木片を象嵌した技法は、伝統工芸と現代生活様式の融合を象徴。ブランドの新たなフェーズを視覚化した。
未来展望:効率と革新の調和
今後は高品質を維持しつつ生産効率を向上、納期短縮を目指す。MTOシリーズの拡充に加え、ジョージの新たな情熱が生む下らしいレディ・トゥ・ウェア ブランドの立ち上げも進行中。伝統と革新の狭間で、常に新たな可能性を探求し続ける。
結び
10年の軌跡は単なる店舗史ではなく、匠の精神が紡ぐ革新の叙事詩。セレクトショップからオーダーメイドブランドへ、ブリオは常に品質と美意識を羅針盤に、航海を続ける。これからも伝統と現代の調和を追求し、唯一無二の着心地を提供し続けるだろう。
以上、Zhang Xiaoさんのジョージへのインタビューでした。